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少年は思う。 ここはどこだろう? と。 辺りは火の海で所狭しと死体が並んでいる。 ――俺は何故またここにいる? それは忘れたくても忘れられない記憶。 何故こんなことになってしまったのだろうと、当時の自分にどれだけ問いかけてもその答えは返ってこない。 ――かゆい……。 自分の左手首を軽く引っかく。 わかることは1つ。 この光景を作ったのは自分だということ。 そして、思うこともまた1つ。 こんなのは間違っていると思う。 多くの人を殺してきた。 ――かゆいかゆい……。 考えながらまた左手首を引っかく。 命令されて、それになんの疑問も抱くことなく多くの人間を殺してきた。 しかし、今になってみれば……。それは間違っていたのではないかと思うのだ。 だから、少年は氾濫を起こした。 ――俺はここにいるべきではない! ――俺の犯した罪は決して消えることはないだろう! ――それでも……。もし、生きることが出来たのなら! 俺に……罪滅ぼしをさせて欲しい! 少年はそれを願った。 もう人を殺したくない! 弱いものを殺すのではなく、弱き者達を救える盾になりたい! ――ああ、それにしてもかゆい!! イライラして少年は自分の左手を強く掻く。 すると手首の皮がバリっと剥げ落ちた。 ――!! 剥げ落ちた手首から虫のようなものが現れる。 モウオソイ……。オマエハヒトヲコロシスギタ……。 少年は声なき声をあげた。 「……!!」 朝の光が目に飛び込んでくる。 ――ああ、夢か……。 とても嫌な夢を見たと思う。よりによって今日みたいな日にこんな夢を見るとは……。 少年、鉄零児《くろがねれいじ》は思った。 短髪の髪の毛に、大人と子供の中間とも言える顔立ちをしている。 零児は落ち着いて辺りを見渡す。 ここは零児の部屋だ。 きっちりじゅうたんが敷かれ、白い床と天井。窓を開ければテラスがある。零児は基本的に読書が趣味で部屋にはいくつかの本棚が並んでいる。 一庶民が住むにしては少々豪華すぎると思う。それも今日でお別れだと思うと感慨深い。 ――俺は……ここで育ったんだよな……。 「お〜い! レイちゃ〜ん! 朝だぞー!」 思い出に浸っていると、元気な声が部屋の外から聞こえてくる。 堂々とその扉を開けて、1人の少女が姿を現した。 零児の幼馴染である白銀火乃木《しろがねひのき》だ。 腰まで届くほどの黒髪を白いリボンで一まとめにしており、青く大きな瞳が幼さを増長させると同時に活発な印象を与える。服装はロングで緑色の巻きスカートをはいており、上半身は黄土色で半袖のシャツと言う開放的な姿だ。 幼さを残す容姿なのに、ロングの巻きスカートと言う組み合わせが妙に大人らしく見える。火乃木自身の背が零児より高いこともその要因だろう。 「ありゃ、珍しくレイちゃんが起きてる……!」 「珍しくってなんだよ!」 火乃木はいつも定時に起こしに来る。だが、今日はいつもよりも早かった。 いつも火乃木は7時前くらいに起こしに来るのに、今日は6時半だ。 「お前も眠れなかったのか?」 「え? ん〜っと……まあね……」 火乃木はモジモジとした感じで答えた。 「時間が経つのは早いものだね。零児、火乃木」 財布と2本の短剣を腰に持った零児と、魔術師の杖を持った火乃木の前で1人の男が言った。 今まで零児と火乃木の面倒を見てくれていた、カイル・エルマンだ。 カイルはここ、アルジニス国の首都、パーソンの市長だ。 6年前に零児と火乃木はカイルの養子となり育てられた。 そして、今日。カイルの元から零児と火乃木は離れ旅に出ることになる。 「今までお世話になりました」 零児は深く頭を下げる。火乃木も同じだ。 「ああ。零児、火乃木。もし辛いことや苦しいことがあった場合、すぐに帰ってくるんだ。私はお前たちの無事を、常に祈っている」 「気持ちは……嬉しいです。ですが、いつまでも貴方に養ってもらうわけにはいきません。それに……」 零児はそこで1度切る。言いたいことはいくつもある。しかし、結果として零児は一言だけ伝えた。 「俺が決めたことですから」 「そうか……」 カイルは柔和な笑みを崩さず、零児の言い分を尊重する。 「零児、お前は多くの人を殺した罪滅ぼしをしたいと言っていたな」 「はい」 「具体的にどうするつもりだ?」 零児は過去に犯した罪の清算をするために旅に出る。カイルは少なくともそう聞いていた。しかし、具体的にどうするのかは聞いていなかった。 だが、零児にもその答えは用意してあった。 「亜人と人間の軋轢《あつれき》を無くそうと思います」 亜人とは人間と動物の特徴を併せ持った人外の存在のことを言う。 亜人は人間を憎む存在であり、それゆえに人間も亜人を敵視している。 零児はその壁を取り払うことで自分の犯した罪を清算しようとしていた。 「そうか。だが、簡単なことではないぞ?」 「簡単に終わるようなものでは、罪滅ぼしになりませんから」 「……がんばれよ」 カイルは優しくそれだけ告げた。 零児と火乃木の旅が始まろうとしていた。 |
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